Tochimoto:Moutan Cortex
(→理化学的品質評価) |
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{{Tochimoto/PharmacopeiaLink|『日本薬局方 第15改正(JP15)』|牡丹皮:MOUTAN CORTEX | {{Tochimoto/PharmacopeiaLink|『日本薬局方 第15改正(JP15)』|牡丹皮:MOUTAN CORTEX | ||
− | |ボタン [[Species:Paeonia|''Paeonia suffruticosa'' Andrews]] | + | |ボタン [[Species:Paeonia|''Paeonia suffruticosa'' Andrews]] (''Paeonia moutan'' Sims) ([[:Category:Paeoniaceae|Paeoniaceae]]) の根皮と規定されている。}} |
{{Tochimoto/PharmacopeiaLink|『中華人民共和国薬典 2005年版』|牡丹皮:CORTEX MOUTAN | {{Tochimoto/PharmacopeiaLink|『中華人民共和国薬典 2005年版』|牡丹皮:CORTEX MOUTAN | ||
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==市場流通品と現状== | ==市場流通品と現状== | ||
現在の日本市場は全て中国産で占められている。中国産の牡丹皮はその加工方法の違いから、下記の2種類に大別される。 | 現在の日本市場は全て中国産で占められている。中国産の牡丹皮はその加工方法の違いから、下記の2種類に大別される。 | ||
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# 原丹皮(皮付牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、木芯を除き乾燥したもの。 | # 原丹皮(皮付牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、木芯を除き乾燥したもの。 | ||
# 刮丹皮(皮去牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、外皮を削り取り、木芯を除き乾燥したもの。 | # 刮丹皮(皮去牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、外皮を削り取り、木芯を除き乾燥したもの。 | ||
中国の主産地は安徽省で、「原丹皮」である『鳳丹皮』『連丹皮』と、「刮丹皮」の商品規格がある。これ以外に産地の違いにより山東丹皮、湖南丹皮、西丹皮、川丹皮、統雑丹(不特定産地)などがあるが、日本市場にはほとんど流通していない。 | 中国の主産地は安徽省で、「原丹皮」である『鳳丹皮』『連丹皮』と、「刮丹皮」の商品規格がある。これ以外に産地の違いにより山東丹皮、湖南丹皮、西丹皮、川丹皮、統雑丹(不特定産地)などがあるが、日本市場にはほとんど流通していない。 | ||
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安徽省銅陵鳳凰山で生産される牡丹皮は最良品とされ、『鳳丹皮』と称される。また安徽省南陵などで生産されるものは『連丹皮』と称され鳳丹皮と区別されている。一般的に4段階に等級分けされ、等級は太さ、外皮の状態、肉質、断面色、粉性の度合、香気の濃淡、結晶状物質の多少などで分けられる。 | 安徽省銅陵鳳凰山で生産される牡丹皮は最良品とされ、『鳳丹皮』と称される。また安徽省南陵などで生産されるものは『連丹皮』と称され鳳丹皮と区別されている。一般的に4段階に等級分けされ、等級は太さ、外皮の状態、肉質、断面色、粉性の度合、香気の濃淡、結晶状物質の多少などで分けられる。 | ||
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『鳳丹皮』は木質部分(芯)が細く、皮部が厚く、外皮が細やかである。『連丹皮』は若干皮部が薄く、外皮も粗いとされるが、現在の流通品では明確な外観による区別は難しく、近年市場では『連丹皮』も『鳳丹皮』として流通しているようである。 | 『鳳丹皮』は木質部分(芯)が細く、皮部が厚く、外皮が細やかである。『連丹皮』は若干皮部が薄く、外皮も粗いとされるが、現在の流通品では明確な外観による区別は難しく、近年市場では『連丹皮』も『鳳丹皮』として流通しているようである。 | ||
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経験的鑑別では白い結晶状物質が析出し、香気が強く、外皮が細やかで、木質部分が細く、皮部が厚く、肉質は白色~淡桃色なものが良品とされる。 | 経験的鑑別では白い結晶状物質が析出し、香気が強く、外皮が細やかで、木質部分が細く、皮部が厚く、肉質は白色~淡桃色なものが良品とされる。 | ||
外皮を去っている刮丹皮は、漢方エキス製剤の指標成分であるペオニフロリンの含量が低いことから、製剤の成分の調整用として一部の漢方エキス製剤メーカーの需要があるが、流通はほとんどない。 | 外皮を去っている刮丹皮は、漢方エキス製剤の指標成分であるペオニフロリンの含量が低いことから、製剤の成分の調整用として一部の漢方エキス製剤メーカーの需要があるが、流通はほとんどない。 | ||
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四川省の西昌丹皮は皮部が薄く、表皮も粗く、品質は劣り、基原植物も不明確である。 | 四川省の西昌丹皮は皮部が薄く、表皮も粗く、品質は劣り、基原植物も不明確である。 | ||
+ | <center> | ||
+ | <gallery caption="" perrow="4"> | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-安徽-鳳丹皮1級-(美康)-03.jpg|鳳丹皮1級:中国安徽省 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-安徽-連丹皮1級-(美康)-03.jpg|連丹皮1級:中国安徽省 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-安徽-刮丹皮-03.jpg|刮丹皮1級:中国安徽省 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-四川-西昌丹皮-(美康)-03.jpg|西昌丹皮:中国四川省 | ||
+ | </gallery> | ||
+ | </center> | ||
調剤用牡丹皮は鳳丹皮、連丹皮の1級・2級が使われる。調剤用牡丹皮は伝統的には○切りに加工され、○切りにすることにより、肉厚及び木質部分の太さがわかるので品質評価が容易であった。しかし、近年は生薬自動分包機の普及により調剤しやすい刻みの剤型が多くなっている。 | 調剤用牡丹皮は鳳丹皮、連丹皮の1級・2級が使われる。調剤用牡丹皮は伝統的には○切りに加工され、○切りにすることにより、肉厚及び木質部分の太さがわかるので品質評価が容易であった。しかし、近年は生薬自動分包機の普及により調剤しやすい刻みの剤型が多くなっている。 | ||
+ | <center> | ||
+ | <gallery caption="" perrow="2"> | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-安徽--刻-03.jpg|調剤用 牡丹皮(刻) | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-ボタンピ-安徽銅陵-○切-03.jpg|調剤用 牡丹皮(○切) | ||
+ | </gallery> | ||
+ | </center> | ||
===流通「牡丹皮」の変遷=== | ===流通「牡丹皮」の変遷=== | ||
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中国国内の牡丹皮の生産量は平年では約1,200トン、多い年で2,400トンといわれており、1980年代に日本市場に中国産の牡丹皮が多く流通するようになった。1980年代後半には韓国産牡丹皮の価格が上昇し、安価な中国産牡丹皮との価格差が広がるにつれ韓国産牡丹皮の輸出量は減少し、中国産牡丹皮が日本市場で主流を占めるようになった。漢方エキス製剤の生産高がピークを迎えた1991年、1992年には一時的に韓国からの輸出量は増加するが、1994年には価格差が許容範囲を越え韓国の輸出量は激減し、1995年には輸出品目から姿を消した。 | 中国国内の牡丹皮の生産量は平年では約1,200トン、多い年で2,400トンといわれており、1980年代に日本市場に中国産の牡丹皮が多く流通するようになった。1980年代後半には韓国産牡丹皮の価格が上昇し、安価な中国産牡丹皮との価格差が広がるにつれ韓国産牡丹皮の輸出量は減少し、中国産牡丹皮が日本市場で主流を占めるようになった。漢方エキス製剤の生産高がピークを迎えた1991年、1992年には一時的に韓国からの輸出量は増加するが、1994年には価格差が許容範囲を越え韓国の輸出量は激減し、1995年には輸出品目から姿を消した。 | ||
+ | <center> | ||
+ | [[Image:Tochimoto-Moutan-牡丹皮 P3グラフ1.jpg]] | ||
+ | </center> | ||
==生産加工状況== | ==生産加工状況== | ||
牡丹皮は種子繁殖で栽培される。初冬に苗床に播種し、2年目に本圃に移植し、移植後4~6年で掘り上げる。その後、根の木質部分(芯)を除き、根皮のみを乾燥する。 | 牡丹皮は種子繁殖で栽培される。初冬に苗床に播種し、2年目に本圃に移植し、移植後4~6年で掘り上げる。その後、根の木質部分(芯)を除き、根皮のみを乾燥する。 | ||
− | |||
===鳳丹皮 中国安徽省銅陵=== | ===鳳丹皮 中国安徽省銅陵=== | ||
+ | <center> | ||
+ | <gallery caption="" perrow="4"> | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-001-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-畑-010813~010814.jpg|ボタンの栽培畑 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-003-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-畑-010813~010814.jpg|30~40㎝の間隔で移植 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-110-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-畑-010813~010814.jpg|掘り上げる範囲の地上部を刈取る | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-005-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-畑-010813~010814.jpg|1本ずつ傷を付けないように掘り上げる | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-131-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-掘り上げた根-010813~010814.jpg|掘り上げられたボタンの根 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-134-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮--運ぶ人-010813~010814.jpg|1日の掘り上げ作業分を運搬 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-014--ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-芯抜き-010813~010814.jpg|乾燥する前に根の木質部分(芯)を抜く | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-013--ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-芯抜き-010813~010814.jpg|側根は切り口をつけて木質部分(芯)を引き抜く | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-015--ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-芯抜き-010813~010814.jpg|主根は木槌で木質部分(芯)を剥離させる | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-021-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-010813~010814.jpg|加工済み牡丹皮 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-019-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮-乾燥-010813~010814.jpg|竹ござの上で牡丹皮の乾燥 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-003-ボタンピ-安徽銅陵-鳳丹皮--乾燥-010813~010814.jpg|コンクリートの乾燥場で乾燥 | ||
+ | </gallery> | ||
+ | </center> | ||
===連丹皮・刮丹皮 中国安徽省南陵=== | ===連丹皮・刮丹皮 中国安徽省南陵=== | ||
基本的な栽培方法・加工方法は銅陵の鳳丹皮と変わらないが、栽培地の土質の違いで牡丹皮の品質が異な | 基本的な栽培方法・加工方法は銅陵の鳳丹皮と変わらないが、栽培地の土質の違いで牡丹皮の品質が異な | ||
る。銅陵では刮丹皮の製造はないが、南陵では外皮の粗いものなどは皮を去り、刮丹皮に加工される。 | る。銅陵では刮丹皮の製造はないが、南陵では外皮の粗いものなどは皮を去り、刮丹皮に加工される。 | ||
+ | <center> | ||
+ | <gallery caption="" perrow="4"> | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-240-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-畑--010813~010814.jpg|ボタンの栽培畑 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-002-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-掘り上げ-010813~010814.jpg|当日収穫する範囲の地上部を刈り、掘り上げる | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-006-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-掘り上げた根-010813~010814.jpg|新鮮なボタンの根、土質は銅陵より粘土質 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-007-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-運ぶ人--010813~010814.jpg|収穫後の運搬も銅陵と同じ | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-012-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-芯抜き--010813~010814.jpg|木質部分(芯)の除去作業 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-219-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮--010813~010814.jpg|銅陵と同じように主根を木槌で剥離させる | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-008-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-芯抜き-010813~010814.jpg|木質部分(芯)除去と皮去り | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-009-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-芯抜き-010813~010814.jpg|鉄製の刃物で外皮を去る刮丹皮の加工 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-227-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮--010813~010814.jpg|除去した木質部分(芯)と連丹皮 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-013-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮--010813~010814.jpg|除去した木質部分(芯)と刮丹皮 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-014-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮--010813~010814.jpg|平坦な竹かごの上で乾燥 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-016-ボタンピ-安徽南陵-連丹皮-乾燥-010813~010814.jpg|庭先の乾燥風景 | ||
+ | </gallery> | ||
+ | </center> | ||
+ | |||
==理化学的品質評価== | ==理化学的品質評価== | ||
Line 69: | Line 115: | ||
|} | |} | ||
− | + | * 灰分 | |
:中国ALL去皮 > 中国ALL皮付,日本ALL皮付 | :中国ALL去皮 > 中国ALL皮付,日本ALL皮付 | ||
:安徽省以外・皮付,安徽省・去皮 > 安徽省・皮付 ( p < 0.05 ) | :安徽省以外・皮付,安徽省・去皮 > 安徽省・皮付 ( p < 0.05 ) | ||
− | + | * 希エタノールエキス含量 | |
:日本ALL皮付 > 中国ALL皮付 > 中国ALL去皮 | :日本ALL皮付 > 中国ALL皮付 > 中国ALL去皮 | ||
:安徽省以外・皮付 > 安徽省・皮付, 安徽省・去皮 ( p < 0.05 ) | :安徽省以外・皮付 > 安徽省・皮付, 安徽省・去皮 ( p < 0.05 ) | ||
+ | ====paeonol, paeoniflorin 含量の比較==== | ||
{| class="wikitable sortable" | {| class="wikitable sortable" | ||
|+ 産地&規格別理化学試験 DATA <br/><small>安徽省以外:江蘇省,四川省 etc. Mean±SD(%) 対象:1985年~2009年市場品(一部、蒐集サンプルを含む)</small> | |+ 産地&規格別理化学試験 DATA <br/><small>安徽省以外:江蘇省,四川省 etc. Mean±SD(%) 対象:1985年~2009年市場品(一部、蒐集サンプルを含む)</small> | ||
Line 96: | Line 143: | ||
|} | |} | ||
− | + | * paeonol | |
:中国ALL皮付と中国ALL去皮及び安徽省・皮付と安徽省・去皮に有意差無し | :中国ALL皮付と中国ALL去皮及び安徽省・皮付と安徽省・去皮に有意差無し | ||
:安徽省・皮付 > 安徽省以外・皮付 ( p < 0.05 ) | :安徽省・皮付 > 安徽省以外・皮付 ( p < 0.05 ) | ||
− | + | * paeoniflorin | |
:中国ALL皮付 > 中国ALL去皮 ( p < 0.05 ) | :中国ALL皮付 > 中国ALL去皮 ( p < 0.05 ) | ||
:安徽省以外・皮付,安徽省・皮付 > 安徽省・去皮 ( p < 0.1 ) | :安徽省以外・皮付,安徽省・皮付 > 安徽省・去皮 ( p < 0.1 ) | ||
===中国安徽省産鳳丹皮の等級別比較=== | ===中国安徽省産鳳丹皮の等級別比較=== | ||
− | + | {| | |
− | + | |valign="top"| | |
+ | * 灰分 | ||
+ | :特級 > 1級,2級 > 3級 ( p < 0.05 ) | ||
+ | * paeoniflorin | ||
+ | :3級,2級 > 特級,1級 ( p < 0.05 ) | ||
+ | * paeonol | ||
+ | :2級 > 1級,特級,3級 ( p < 0.05 ) | ||
+ | | [[Image:Tochimoto-Moutan-牡丹皮-P9 比較_1.jpg|450px]] | ||
+ | |} | ||
+ | |||
+ | {| | ||
+ | |valign="top"| 去周皮/刮丹皮と周皮部のpaeoniflorin含量の比較 | ||
+ | | [[Image:Tochimoto-Moutan-牡丹皮-P9 比較_2.jpg|300px]] | ||
+ | |} | ||
==内部形態:鏡検== | ==内部形態:鏡検== | ||
− | JP15:内部形態についての記載はない。 | + | {| |
+ | |valign="top"|JP15:内部形態についての記載はない。 | ||
;生薬の性状 | ;生薬の性状 | ||
+ | |||
本品は管状~半管状の皮片で、厚さ約0.5cm、長さ5~8cm、径0.8~1.5cmである。外面は暗褐色~帯紫褐色で、横に長い小だ円形の側根の跡と縦じわがあり、内面は淡灰褐色~帯紫褐色を呈し、平らである。折面はきめがあらい。内面及び折面にはしばしば白色の結晶を付着する。 | 本品は管状~半管状の皮片で、厚さ約0.5cm、長さ5~8cm、径0.8~1.5cmである。外面は暗褐色~帯紫褐色で、横に長い小だ円形の側根の跡と縦じわがあり、内面は淡灰褐色~帯紫褐色を呈し、平らである。折面はきめがあらい。内面及び折面にはしばしば白色の結晶を付着する。 | ||
本品は特異なにおいがあり、味はわずかに辛くて苦い。 | 本品は特異なにおいがあり、味はわずかに辛くて苦い。 | ||
+ | <gallery perrow="2"> | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-牡丹皮・集晶J.jpg|120px|シュウ酸カルシウムの集晶 | ||
+ | Image:Tochimoto-Moutan-牡丹皮・デンプン粒J.jpg|120px|牡丹皮に認められるデンプン粒 | ||
+ | </gallery> | ||
+ | | | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-cmt445.jpg]] | ||
+ | |} | ||
===内部形態の比較=== | ===内部形態の比較=== | ||
− | + | <center> | |
− | + | {| | |
− | + | | ○鳳丹皮 <中国安徽省> | |
+ | | ○連丹皮 <中国江蘇省> | ||
+ | | ○刮丹皮 <中国安徽省> | ||
+ | |rowspan="4"| | ||
+ | 刮丹皮の表面で削られているのは、周皮(コルク層)までで、それより内部までは削られていない。また、わずかにコルク層が残っている部分も認められる。<br/> | ||
+ | 周皮の拡大<br/> | ||
+ | [[Image:Tochimoto-Moutan-刮丹皮・周皮-2J.jpg|120x120px]] | ||
+ | |- | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-鳳丹皮・厚J.jpg|120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-連丹皮・厚J.jpg|120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-刮丹皮・厚J.jpg|120px]] | ||
+ | |- | ||
+ | |周皮の拡大 | ||
+ | |周皮の拡大 | ||
+ | |周皮の拡大 | ||
+ | |- | ||
+ | |[|[[Image:Tochimoto-Moutan-鳳丹皮・周皮J.jpg|120x120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-連丹皮・周皮J.jpg|120x120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-刮丹皮・周皮-1J.jpg|120x120px]] | ||
+ | |} | ||
+ | </center> | ||
− | + | ===内部形態の比較 (芯の残っているもの)=== | |
− | ===内部形態の比較=== | + | {| |
− | + | | ○鳳丹皮 <中国安徽省> | |
− | + | | ○連丹皮 <中国江蘇省> | |
+ | | ○刮丹皮 <中国安徽省> | ||
+ | |- | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-鳳丹皮・芯アリJ.jpg|120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-連丹皮・芯アリJ.jpg|120px]] | ||
+ | |[[Image:Tochimoto-Moutan-刮丹皮・芯アリJ.jpg|120px]] | ||
+ | |} |
Latest revision as of 02:00, 25 December 2010
Crude-drug Top Gallery |
General Index | Names | Prescriptions | Books | Journals | Terminology | Chinese Medicines |
![]() | 出典: 栃本天海堂創立60周年記念誌 |
[edit] 牡丹皮 (Moutan Cortex)
牡丹皮はボタン科のボタンPaeonia suffruticosa Andrews (Paeonia moutan Sims)の根皮を基原とする。牡丹には鼠姑(ソコ)、鹿韮(ロクキュウ)、百両金、木芍薬、花王、洛陽花、富賞花などの別名がある。別名の「洛陽花」は洛陽の人々がこの牡丹の花を非常に好み親しんだことから、「花王」は花の中で牡丹が第一、芍薬が第二となっているところから花王と呼ばれた様に、観賞用の花弁に由来する別名が多くある。生薬としては丹皮、粉丹皮などの一般名がある。赤い色(丹)のものが上品とされ、たとえ種ができても芽で繁殖でき、薬用部位は根皮であることから牡丹皮と呼ばれた。牡丹の名は中国秦漢時代以前の文献には見当たらず、観賞用として花弁が称賛され、栽培が広がった隋唐時代以降において、一般の文献に見られるようになった。 (より詳しく見る→栃本天海堂創立60周年記念誌)
|
[edit] 牡 丹 皮
『日本薬局方 第15改正(JP15)』
- 牡丹皮:MOUTAN CORTEX
- ボタン Paeonia suffruticosa Andrews (Paeonia moutan Sims) (Paeoniaceae) の根皮と規定されている。
『中華人民共和国薬典 2005年版』
- 牡丹皮:CORTEX MOUTAN
- 牡丹 Paeonia suffruticosa Andr. の干燥した根皮と規定されている。
『大韓薬典 第9改正』
- 목단피 牡丹皮:MOUTAN CORTEX
- 목단 Paeonia suffruticosa Andrews の根皮と規定されている。
[edit] 市場流通品と現状
現在の日本市場は全て中国産で占められている。中国産の牡丹皮はその加工方法の違いから、下記の2種類に大別される。
- 原丹皮(皮付牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、木芯を除き乾燥したもの。
- 刮丹皮(皮去牡丹皮): 掘り上げた根から細根を除き、外皮を削り取り、木芯を除き乾燥したもの。
中国の主産地は安徽省で、「原丹皮」である『鳳丹皮』『連丹皮』と、「刮丹皮」の商品規格がある。これ以外に産地の違いにより山東丹皮、湖南丹皮、西丹皮、川丹皮、統雑丹(不特定産地)などがあるが、日本市場にはほとんど流通していない。 安徽省銅陵鳳凰山で生産される牡丹皮は最良品とされ、『鳳丹皮』と称される。また安徽省南陵などで生産されるものは『連丹皮』と称され鳳丹皮と区別されている。一般的に4段階に等級分けされ、等級は太さ、外皮の状態、肉質、断面色、粉性の度合、香気の濃淡、結晶状物質の多少などで分けられる。 『鳳丹皮』は木質部分(芯)が細く、皮部が厚く、外皮が細やかである。『連丹皮』は若干皮部が薄く、外皮も粗いとされるが、現在の流通品では明確な外観による区別は難しく、近年市場では『連丹皮』も『鳳丹皮』として流通しているようである。 経験的鑑別では白い結晶状物質が析出し、香気が強く、外皮が細やかで、木質部分が細く、皮部が厚く、肉質は白色~淡桃色なものが良品とされる。
外皮を去っている刮丹皮は、漢方エキス製剤の指標成分であるペオニフロリンの含量が低いことから、製剤の成分の調整用として一部の漢方エキス製剤メーカーの需要があるが、流通はほとんどない。 四川省の西昌丹皮は皮部が薄く、表皮も粗く、品質は劣り、基原植物も不明確である。
調剤用牡丹皮は鳳丹皮、連丹皮の1級・2級が使われる。調剤用牡丹皮は伝統的には○切りに加工され、○切りにすることにより、肉厚及び木質部分の太さがわかるので品質評価が容易であった。しかし、近年は生薬自動分包機の普及により調剤しやすい刻みの剤型が多くなっている。
[edit] 流通「牡丹皮」の変遷
牡丹皮の国内流通品は1960年代まで国内生産品(信州、大和)でまかなわれていた。また海外に輸出されたこともあり、品質は高く評価されていたが、1960年頃に日本は高度経済成長期に入り、牡丹皮の生産量は激減した。牡丹皮の国内生産の減少は1970年代から韓国産牡丹皮にとって代わられ、日本市場は韓国産牡丹皮が主流を占めることになった。医療用漢方エキス製剤が保険適用になった1976年から「図Ⅰ:韓国の牡丹皮輸出量と日本の漢方エキス製剤生産額」に見られるよう韓国の牡丹皮輸入量が急増し、1978年には217トンの牡丹皮が韓国から輸出された。
中国国内の牡丹皮の生産量は平年では約1,200トン、多い年で2,400トンといわれており、1980年代に日本市場に中国産の牡丹皮が多く流通するようになった。1980年代後半には韓国産牡丹皮の価格が上昇し、安価な中国産牡丹皮との価格差が広がるにつれ韓国産牡丹皮の輸出量は減少し、中国産牡丹皮が日本市場で主流を占めるようになった。漢方エキス製剤の生産高がピークを迎えた1991年、1992年には一時的に韓国からの輸出量は増加するが、1994年には価格差が許容範囲を越え韓国の輸出量は激減し、1995年には輸出品目から姿を消した。
[edit] 生産加工状況
牡丹皮は種子繁殖で栽培される。初冬に苗床に播種し、2年目に本圃に移植し、移植後4~6年で掘り上げる。その後、根の木質部分(芯)を除き、根皮のみを乾燥する。
[edit] 鳳丹皮 中国安徽省銅陵
[edit] 連丹皮・刮丹皮 中国安徽省南陵
基本的な栽培方法・加工方法は銅陵の鳳丹皮と変わらないが、栽培地の土質の違いで牡丹皮の品質が異な る。銅陵では刮丹皮の製造はないが、南陵では外皮の粗いものなどは皮を去り、刮丹皮に加工される。
[edit] 理化学的品質評価
産地 | 規格 | 検体数 | 灰分 6.0%以下 |
酸不溶性灰分 1.0%以下 |
乾燥減量 | 希エタノール エキス含量 |
---|---|---|---|---|---|---|
中国・安徽省 | 皮付/鳳丹皮 | 157 | 3.3 ±0.5 | 0.3 ±0.1 | 12.5 ±1.8 | 27.0 ±2.9 |
安徽省以外 | 皮付/連丹皮 | 22 | 3.8 ±0.6 | 0.3 ±0.2 | 12.7 ±1.4 | 29.1 ±3.8 |
中国ALL | 皮付ALL | 179 | 3.4 ±0.5 | 0.3 ±0.1 | 12.5 ±1.7 | 27.3 ±3.1 |
日本ALL | 皮付 | 11 | 3.4 ±0.6 | 0.2 ±0.1 | 12.7 ±2.0 | 29.8 ±4.4 |
中国・安徽省 | 去皮/刮丹皮 | 17 | 3.8 ±0.4 | 0.1 ±0.1 | 12.4 ±1.3 | 26.3 ±3.5 |
安徽省以外 | 去皮/刮丹皮 | 5 | 3.5 ±0.4 | 0.2 ±0.1 | 12.7 ±2.0 | 20.2 ±2.5 |
中国ALL | 去皮/刮丹皮 | 22 | 3.7 ±0.4 | 0.1 ±0.1 | 12.4 ±1.4 | 24.9 ±4.2 |
- 灰分
- 中国ALL去皮 > 中国ALL皮付,日本ALL皮付
- 安徽省以外・皮付,安徽省・去皮 > 安徽省・皮付 ( p < 0.05 )
- 希エタノールエキス含量
- 日本ALL皮付 > 中国ALL皮付 > 中国ALL去皮
- 安徽省以外・皮付 > 安徽省・皮付, 安徽省・去皮 ( p < 0.05 )
[edit] paeonol, paeoniflorin 含量の比較
産地 | 規格 | 検体数 | paeonol 1.0%以下 |
検体数 | paeoniflorin |
---|---|---|---|---|---|
中国・安徽省 | 皮付/鳳丹皮 | 140 | 2.26 ±0.26 | 146 | 1.06 ±0.21 |
安徽省以外 | 皮付/連丹皮 | 16 | 2.01 ±0.56 | 22 | 1.09 ±0.26 |
中国ALL | 皮付ALL | 156 | 2.23 ±0.31 | 168 | 1.06 ±0.21 |
日本ALL | 皮付 | 16 | 1.87 ±0.50 | 9 | 0.72 ±0.22 |
中国・安徽省 | 去皮/刮丹皮 | 17 | 2.25 ±0.29 | 17 | 0.96 ±0.15 |
安徽省以外 | 去皮/刮丹皮 | 2 | 2.11 ±0.11 | 5 | 0.57 ±0.14 |
中国ALL | 去皮/刮丹皮 | 19 | 2.24 ±0.28 | 22 | 0.87 ±0.22 |
- paeonol
- 中国ALL皮付と中国ALL去皮及び安徽省・皮付と安徽省・去皮に有意差無し
- 安徽省・皮付 > 安徽省以外・皮付 ( p < 0.05 )
- paeoniflorin
- 中国ALL皮付 > 中国ALL去皮 ( p < 0.05 )
- 安徽省以外・皮付,安徽省・皮付 > 安徽省・去皮 ( p < 0.1 )
[edit] 中国安徽省産鳳丹皮の等級別比較
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去周皮/刮丹皮と周皮部のpaeoniflorin含量の比較 | ![]() |
[edit] 内部形態:鏡検
JP15:内部形態についての記載はない。
本品は管状~半管状の皮片で、厚さ約0.5cm、長さ5~8cm、径0.8~1.5cmである。外面は暗褐色~帯紫褐色で、横に長い小だ円形の側根の跡と縦じわがあり、内面は淡灰褐色~帯紫褐色を呈し、平らである。折面はきめがあらい。内面及び折面にはしばしば白色の結晶を付着する。 本品は特異なにおいがあり、味はわずかに辛くて苦い。 |
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[edit] 内部形態の比較
○鳳丹皮 <中国安徽省> | ○連丹皮 <中国江蘇省> | ○刮丹皮 <中国安徽省> |
刮丹皮の表面で削られているのは、周皮(コルク層)までで、それより内部までは削られていない。また、わずかにコルク層が残っている部分も認められる。 |
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周皮の拡大 | 周皮の拡大 | 周皮の拡大 | |
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[edit] 内部形態の比較 (芯の残っているもの)
○鳳丹皮 <中国安徽省> | ○連丹皮 <中国江蘇省> | ○刮丹皮 <中国安徽省> |
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