Aritalab:Lecture/Biochem/Modularity/NF
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− | 負のフィードバックは、振動現象を実現する。 | + | ;負のフィードバックは、振動現象を実現する。 |
Revision as of 06:00, 20 June 2011
MAPK カスケードと負のフィードバック
ここでは Cell Designer ソフトウェアを用いて、MAPK カスケードのシミュレーションを実感することを目標としています。 Cell Designer ソフトウェアのサンプルファイルの中から、 MAPK を選択してください。
Mitogen-activated Protein Kinase (MAPK) は全身の細胞で発現し、細胞外のシグナルを核内に伝える代表的なシグナル伝達経路です。 MAPK とは総称で、代表的なものにERK1/2などがあります。ここでは MAPK が MAPキナーゼキナーゼ (MAPKK) により 2 段階のリン酸化を受け、MAPKK はMAPKKキナーゼにより 2 段階のリン酸化を受けるモデルになっています。最終的にできるMAPK二リン酸は、MKKK を抑制しています。 左図の右下から左上に戻ってくる経路 (J0という反応を┴型で抑制している) が、抑制効果を表しています。 このサイクルには、一つだけ「抑制」の効果があるので、負のフィードバックループになっています。 |
とりあえず経路全体をシミュレーションしてみます。8種のタンパク質が複雑な動きをすることがわかります。 初期値をみると MKKK, MKK, MAPK がそれぞれ 90, 280, 280 になっています。(3種に色分けされた行方向のグループについて、それぞれ一番左の要素です。) それ以外の初期値はすべて 10 になっていて、それぞれタンパク質のリン酸化状態を表現しています。MKK, MAPK は2段階のリン酸化がおこなわれるのでPがはいる丸印がボックスに2箇所ずつ用意されています。 |
ここで一番上の行(黄色)に注目します、つまりMKKKのリン酸化だけを考えてみましょう。一番上の行(黄色)だけを残して残りを消去し、シミュレーションをおこなってみます。 フィードバックループがないため、MKKKとMKKK-P(リン酸化された状態)が平衡状態、つまり量の変動がない状態に落ち着くはずです。 左図で黄色が MKKK-P, 赤色が MKKK です。全ての MKKK がリン酸化されてそのまま動かないことがわかります。 MKKKとMKKK-Pはそれぞれ 90, 10 が初期値だったので合計した 100 が最終的な MKKK-P の量になっています。 |
つぎにMKKKとMKKだけに注目したネットワークを作って動きを見てみます。ネットワーク図でいうと、黄色と緑の要素だけ残してシミュレーションをおこないます。フィードバックループがないため、やはり量の変動がない状態に落ち着くはずです。 |
上の図にあった黄色と赤のライン (MKKK) はこの図において黄色と緑になっています。一つ前のシミュレーション結果とはy軸方向のスケーリングが異なることに注意します。MKKの三つが左から順にそれぞれ赤、水色、青です。赤と青に注目してください。MKKKの動きと同じく、相補的な挙動をみせています。MKK, MKK-P, MKK-PPの初期値はそれぞれ 280, 10, 10 だったので合計した 300 に近い値が MKK-PP (青)の最終値です。 また MKK-P (水色)は初めに量が増えるものの、最終的には小さい値で平衡を保つことになります。 |
ここまでの知見はMKKK, MKK, MAPK とカスケードが3段階になっても同じ動きのはずです。(何段階になっても同じ。)フィードバックがない状態では、全くリン酸化されていないMAPK と 二回リン酸化された MAPK の関係は、初期状態から量が逆転しておわるだけと予想されます。フィードバックがないだけのネットワークをシミュレーションしてみます。 |
フィードバックがない状態で8種類のタンパク質を観測すると
という3組の動きがどれも似ていることがわかります。(ちょっとわかりにくいですが色を確認してください。) 量が変化する時間をみると、その順序は MKKK → MKK → MAPK です。MAPKの薄いグレーだけは増加のスピードが速くマゼンタを追い抜いて量が増えますが、増加し始めるタイミングはマゼンタより遅いことに注目してください。 |
ここで最初のネットワークに戻して、フィードバックを考慮した状態でシミュレーションをやってみましょう。 黄色と水色、赤とマゼンタ、緑と薄いグレーが相補的な動きを見せるところは一緒です。 ネットワーク図における MKKK, MKK, MAPK の各グループをモジュールと考え、代表タンパク質 (MKKK-P, MKK-PP, MAPK-PP) だけを表示させてみます。 この3者がネットワークの挙動を示す鍵となっています。 薄いグレー色が上がってくるにつれて量が増えていた水色 (MKKK-P) が減ってくることに注意してください。 水色が減るということは、これと相補的な挙動をする黄色 (MKKK) が増えるということで、シミュレーションの初期に近い状態に戻っていきます。 |
ここまで読んできた人は、最初のシミュレーション結果を複雑で難しいとは思わなくなります。なぜなら、3つのモジュールに分けて考えればよく、水色、マゼンタ、薄いグレーの挙動だけ把握すればあとは補えることがわかったからです。 下の図で左が「難しく見える」シミュレーション結果です。このうち、3モジュールに注目すると真ん中のようになります。結局、3つのタンパク質グループが順番に量を増加させ、順番に量を減少させるだけです。 ですから、時間軸を長くとると右図のようになり、振動していることがわかります。
まとめ
- 負のフィードバックは、振動現象を実現する。