Tochimoto:Phellodendri Cortex
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出典: 栃本天海堂創立60周年記念誌 |
黄柏 (Phellodendri Cortex)
黄柏はミカン科のキハダPhellodendron amurense RuprechtまたはシナキハダPhellodendron chinense Schneiderの周皮を除いた樹皮を基原とする。日本では苦味健胃薬として利用され、黄柏から製される「陀羅尼助」「百草丸」は吉野の大峰山、木曽の御嶽山、山陰の伯耆大山で山岳宗教と結びついて修験行者が携行し、人々に広められた薬で古くから作られている。 キハダは寒冷地では主成分のベルベリン含量が低くなる傾向があり、北海道、韓国、北朝鮮、中国東北部の黄柏は日局の成分、灰分規格が不適合になることが多い。 (より詳しく見る→栃本天海堂創立60周年記念誌)
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黄 柏
『日本薬局方 第15改正(JP15)』
- 黄柏:PHELLODENDRI CORTEX
- キハダPhellodendron amurense RuprechtまたはPhellodendron chinense Schneider (Rutaceae)の周皮を除いた樹皮と規定されている。
『中華人民共和国薬典 2005年版』
- 黄柏:CORTEX PHELLODENDRI CHINENSIS
- 黄皮樹Phellodendron chinense Schneid.の干燥した樹皮 別名:川黄柏
- 関黄柏:CORTEX PHELLODENDRI AMURENSIS
- 黄檗 Phellodendron amurense Rupr. の干燥した樹皮
以上2種が規定されている。
『大韓薬典 第9改正』
- 황백 黄柏:PHELLODENDRI CORTEX
- 황벽나무 Phellodendron amurense Ruprecht または황피수(黄皮樹) Phellodendron chinense Schneider の幹皮で周皮を取り除いたものと規定されている。
市場流通品と現状
日本産は九州、四国、山陰、北陸など日本各地で生産されている。1970年ころは北朝鮮、韓国、台湾からも輸入されていたが、北朝鮮産は日本政府の外交政策により流通が止まり、現在は市場では見られない。現在、中国産は四川省・湖南省・湖北省・広西壮族自治区などから産する「川黄柏」と、東北3省(黒竜江省・吉林省・遼寧省)などから産する「関黄柏」が流通している。北朝鮮産と関黄柏はベルベリン含量が低く単独では使用できないが、製剤の成分含量の調整用として不可欠であり、川黄柏と混合されて刻みの剤形で輸入されている。日本産、北朝鮮産および関黄柏の基原はキハダあるいはその変種で、川黄柏はシナキハダとしている。
日本産黄柏
日本産の採集時期は、樹皮が剥がし易い雨季(梅雨)に限定されており、鬼皮である周皮が完全に除去されている。 山陰の鳥取県産、北陸の新潟県産は、品質的に良品とされ、色調も濃く、市場で好まれる。 反対に北陸の福井県産は、高い山にキハダが生育していることが多く、色調が薄い傾向があり、品質は劣るとされる。 日本産黄柏は植林年数が長く、皮も厚く、成分含量が安定しており、適度に粘性もあるため、陀羅尼助などの製造原料として最適である。
中国産・北朝鮮産黄柏
黄柏の周皮は樹木が充分に水分を含む雨期などに皮剥ぎを行うと簡単に剥離できるが、それ以外の時季は刃物などで強制的に剥ぐ必要がある。刃物で鬼皮の周皮を除いた黄柏は、表面が黄色で所々に周皮が残っており、中国産や北朝鮮産の黄柏は、これが時々混在している。 川黄柏は南部黄柏ともいわれ、市場に流通するものは栽培品で比較的皮は薄いがベルベリン含量が高く粘性が弱い。関黄柏は東北黄柏とも呼ばれ、北朝鮮産と同様にほとんどが野生品で、皮は厚く、ベルベリン含量は低く粘性が強い特徴がある。
調剤用黄柏
キハダとシナキハダは内部形態の髄線(P156鏡検図参照)が収束しているか、並行にのびているかの違いがある。そのため、刻み生薬では日本産黄柏(キハダ)は薄く割け難く原形生薬の厚みと同じ刻み生薬ができるが、川黄柏(シナキハダ)は薄く割けやすく本来の皮の厚さより薄い刻みの剤形ができやすいのが特徴である。
生産加工状況
日本産黄柏 宮崎県
- 雨期に採集するため、自然乾燥は難しく、以前は囲炉裏端の屋根裏などで乾燥していたこともある。そのため、黒いすすが付着した黄柏も見られたが、現在は機械乾燥が主流である。
川黄柏 中国湖南省
理化学的品質評価
産地or規格 | 灰分 7.5%以下 |
酸不溶性灰分 0.5%以下 |
乾燥減量 9.0%以下 |
希エタノール エキス含量 |
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日本ALL | 5.7 ±0.8(159) | 0.2 ±0.1(159) | 6.5 ±1.8(147) | 23.3 ±3.2(90) |
中国・川黄柏(南部) | 5.7 ±1.2(107) | 0.3 ±0.2(107) | 6.8 ±1.4(107) | 18.7 ±2.5(96) |
中国・関黄柏(東北) | 7.4 ±0.5(39) | 0.3 ±0.1(39) | 6.6 ±1.7(39) | 16.5 ±2.0(30) |
北朝鮮 | 7.3 ±0.9(19) | 0.3 ±0.1(19) | 7.0 ±1.9(19) | 16.3 ±1.7(13) |
日本・九州 | 5.5 ±1.2(13) | 0.2 ±0.1(13) | 6.8 ±1.7(13) | 24.0 ±4.4( 9) |
日本・四国 | 5.4 ±0.7(48) | 0.2 ±0.1(48) | 6.1 ±1.3(45) | 23.0 ±3.2(15) |
日本・山陰 | 5.0 ±0.2( 6) | 0.2 ±0.1( 6) | 6.8 ±1.0( 6) | 21.9 ±2.3( 4) |
日本・新潟 | 5.5 ±1.0( 7) | 0.2 ±0.1( 7) | 7.6 ±1.5( 6) | 27.2 ±1.7( 7) |
日本・福井 | 6.1 ±0.6(25) | 0.2 ±0.1(25) | 6.5 ±1.3(18) | 23.7 ±2.5(21) |
日本・長野&群馬 | 6.2 ±0.6(12) | 0.3 ±0.2(12) | 6.5 ±1.7(12) | 22.0 ±4.0( 9) |
中国・湖南 | 5.8 ±1.0(49) | 0.3 ±0.2(49) | 6.6 ±1.5(49) | 18.4 ±2.2(47) |
中国・湖北 | 6.5 ±1.5( 9) | 0.4 ±0.5( 9) | 6.5 ±0.9( 9) | 19.1 ±3.7( 9) |
中国・貴州 | 5.7 ±0.7( 8) | 0.3 ±0.1( 8) | 7.5 ±0.8( 8) | 20.2 ±1.7( 8) |
中国・広西 | 4.3 ±1.1(16) | 0.2 ±0.1(16) | 7.0 ±1.5(16) | 18.6 ±3.0(16) |
- 日本 ALL,中国・川黄柏(南部),中国・関黄柏(東北),北朝鮮の比較
- 灰分
- 中国・関黄柏(東北), 北朝鮮 > 中国・川黄柏(南部),日本ALL ( p < 0.05 )
- 希エタノールエキス含量
- 日本ALL > 中国・川黄柏(南部) > 中国・関黄柏(東北),北朝鮮 ( p < 0.05 )
- 日本国内の産地による比較
- 灰分
- 長野&群馬, 福井 > 九州, 新潟, 四国, 山陰 ( p < 0.05 )
- 希エタノールエキス含量
- 新潟 > 九州,福井,四国,長野&群馬,山陰 ( p < 0.05 )
- 中国・川黄柏(南部)の産地による比較
- 灰分
- 湖北,湖南,貴州 > 広西 ( p < 0.05 )
- 希エタノールエキス含量
- 貴州 > 湖南 ( p < 0.05 ) その他は有意差無し
berberine 含量の比較 (JP15 : 1.2%以上)
内部形態:鏡検
JP15:内部形態についての記載はない。
- 生薬の性状
本品は板状又は巻き込んだ半管状の皮片で、厚さ2~4mmである。外面は灰黄褐色~灰褐色で、多数の皮目の跡があり、内面は黄色~暗黄褐色で、細かい縦線を認めるが平滑である。折面は繊維性で鮮黄色を呈する。横切面をルーペ視するとき、皮部外層は黄色で薄く、石細胞が黄褐色の点状に分布する。皮部内層は厚く、一次放射組織は外方に向かうに従い幅が広がるので、二次皮部の一次放射組織間はほぼ三角形を呈し、その頂点に後生放射組織が集中する。師部繊維群は褐色で、階段状に並び、放射組織と交叉し、格子状を呈する。 本品は弱いにおいがあり、味は極めて苦く、粘液性で、だ液を黄色に染める。
黄柏の内部形態について
周皮は除去され、通常コルク層を認めない。一次皮部は狭く、単独または集合した石細胞が散在する。二次皮部は広く、繊維群と柔組織が交互に平行して階段状に配列する。繊維群に隣接する細胞には、シュウ酸カルシウムの方晶を含む(縦切面では、結晶細胞列として認められる)。柔組織には粘液細胞が散在している。二次放射組織は2~5細胞列からなる。 |
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シュウ酸カルシウムの方晶による結晶細胞列 | ||
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- 各種黄柏の共通特徴
- 粘液によるゲル化が見られる。
- 二次皮部中において、繊維群と柔組織が交互に層をなして階段状を呈している。
- 繊維群には結晶細胞列を伴う。
- 鏡検による分類
- 二次皮部中の放射組織が一次皮部に向かって収斂している(P. amurense)
- 形成層に近い部分の放射組織が蛇行している → 黄柏(北朝鮮)
- 形成層に近い部分の放射組織が蛇行していない
- 一次皮部に石細胞及び方晶が多い → 黄柏(遼寧省大連)
- 一次皮部に石細胞及び方晶が少ない → 黄柏(九州及び新潟)
- 二次皮部中の放射組織が一次皮部に向かって平行している(P. chinense) → 黄柏(浙江省及び広西壮族自治区)
日本産黄柏(P. amurense)
黄柏 <九州> |
黄柏 <新潟> |
拡大図・黄柏 <新潟> |
日本産黄柏(九州産、新潟産)、北朝鮮産黄柏及び中国産黄柏(遼寧省大連)は二次放射組織が収斂している。即ち、P. amurense に由来するものである。髄線は蛇行していない。 |
北朝鮮産&中国遼寧省大連産黄柏(P. amurense)
黄柏 <北朝鮮> |
黄柏 <中国遼寧省大連> |
拡大図・黄柏 <北朝鮮> |
髄線は蛇行している。 |
中国産黄柏
黄柏 <浙江省> |
黄柏 <広西壮族自治区> |
二次放射組織が互いに平行になっている。P. chinense に由来するものである。植物の分布から、浙江省産は P. chinense Schneid. var. chinense であり、広西産は P. chinense Schneid. var. glabriusculum Schneid. であろう。一次皮部には、石細胞および方晶が多く見られる。 |
黄柏各地全体比較
黄柏 <九州> | 黄柏 <中国遼寧省大連> |
黄柏 <北朝鮮> | 黄柏 <中国浙江省> |