Tochimoto:Poria
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出典: 栃本天海堂創立60周年記念誌 |
茯苓 (Poria)
茯苓はサルノコシカケ科のマツホドPoria cocos Wolfの菌核を基原とし、通例、外層をほとんど除いたものを基原とする。原名は「伏霊」といい、古人は松の神霊によって根に伏結してできると考え「伏霊」と名付けられた。「茯苓」と呼ばれるようになったのは文字の誤りであるといわれている。 赤松などの枯木、伐採木の周辺に自生することが多い。日本国内でも多く採集されていたが、採集者の減少などにより生産量は減少し、朝鮮半島産の茯苓が市場を占めていた。日本・朝鮮半島産とも、内部は薄いピンク色をしており、キメが細かく重質であった。野生品の採集は資源の枯渇が懸念されていたが、1980年代に入って中国から安価な栽培茯苓が大量に輸入されるようになって、市場は中国産が主流になった。 中国産栽培茯苓の輸入当初は、内部の色調は真っ白で立方形に加工されており、品質は良好と判断されたが、輸入後の夏が過ぎるころ、ほとんどが虫害を受けた。茯苓は経験的に虫害を受けないとされていたが、中国産の栽培茯苓は軽質で虫害を受けやすいことに驚かされた経緯がある。 多くの菌核は、農薬などを吸着しやすい傾向があり、茯苓も例外ではなく、農地で栽培された中国産茯苓はBHCなどの残留農薬を認めることがあるので注意が必要である。 (より詳しく見る→栃本天海堂創立60周年記念誌)
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茯 苓
『日本薬局方 第15改正(JP15)』
- 茯苓:PORIA
- マツホド Poria cocos Wolf (Polyporaceae) の菌核で、通例、外層をほとんど除いたものと規定されている。
『中華人民共和国薬典2005年版』
- 茯苓:PORIA
- 茯苓 Poria cocos (Schw.) Wolf の干燥した菌核と規定されている。
『大韓薬典 第9改正』
- 복령 茯苓:PORIA SCLEROTIUM
- 적복령、백복령、복령(茯苓) Poria cocos Wolfの菌核と規定されている。
『大韓薬典外生薬規格集(2007)』
- 복신 茯神:HOELEN CUM RADIX
- 백복신(白茯神) 松の木の根に寄生した복령Poria cocos Wolfの菌核と規定されている。
備考:基原植物の表記は、日本・中国・韓国でマツホド Poria cocos Wolf としているが、国際的にマツホドWolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson が妥当であるとされており、日本でも日局第16改正で併記しマツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) とする検討がなされている。
市場流通品と現状
日本・朝鮮半島産の茯苓(鮮茯苓)は野生品、中国産は栽培品に大別される。以前は、中国産の「雲苓」といわれる野生品が香港市場などで流通していたが、現在は激減し数トン/年生産されるだけである。野生品の茯苓である日本産は数十kg/年生産されるに過ぎず、韓国産も資源の枯渇で生産量は激減し、北朝鮮産は政府の外交政策によって入手困難であり、現在は中国の朝鮮自治区から産出されるものに限定されている。 中国産の栽培茯苓は加工方法で分類され、塊の皮付きあるいは皮去りのまま乾燥した「個苓」、マッチ箱状の立方形に成形した「方苓(平片とも)」、サイコロ状の小角に成形した「骰塊」、鉋(カンナ)で削った薄い煎餅状の「片苓」がある。特殊な茯苓として松の根が中心に通った「茯神」と呼ばれるものがあり、効能は茯苓とほぼ同じであるが、古くから安神作用が茯苓より優れているといわれている。また削った皮も「茯苓皮」として中医学派で使われる。
雪茯苓は中国の「片苓」の加工方法で約1mmの厚さに鉋のような器具で削った茯苓で、韓国市場では調剤用の茯苓として広く使用されている。雪茯苓は、日本市場でも茯苓の○切り規格として使用される。 |
- 中国産茯苓
中国の茯苓栽培は1650年湖北省羅田で始まったとされ、現在は安徽省、湖北省、四川省、雲南省など各地で行なわれており、基本的な加工方法に差はないが「方苓」「骰塊」などの規格は生産地よって、形、大きさなどが少し異なる。日本に中国産の「個苓」が輸入されることは皆無である。
備考:野生品である鮮茯苓は薄いピンク色を呈し重質で水に沈む。栽培品の中国産は白色で水に沈む重質な茯苓と水に浮く軽質な茯苓がある。経験的鑑別では水に沈む重質なものが良品とされている。
生産加工状況
野生茯苓の採集:日本
野生の茯苓は松の木が枯れた場所で採集され、先の尖った「茯苓突き」といわれる特殊な道具が必要である。枯れた松の木の周辺を「茯苓突き」で突きながら地下を探り、その感触で茯苓を探し当てる。熟練した経験のない者には非常に難しい作業である。
中国における茯苓の栽培 :湖北省羅田県
茯苓は菌糸(種菌)を植えてから半年以降から収穫可能であるが、早期に掘り上げる場合は茯苓が軽質である傾向がある。羅田県では、種植時期は3月で、1畝につき2500kg(生)の茯苓が収穫できる。連作は収穫量が落ちるので5年間は同じ場所では栽培しない。栽培には樹齢20年以上の松を12月に切り、長さ約50cmに切断し、乾燥しやすいように一部皮を剥ぎ3月まで乾燥した木材(ほだき)を使用する。この木材の一端に、菌糸を1袋貼り付ける。深さ約10~20cmに等間隔になるよう、種となる菌糸を貼り付けた松の木(太いものは1本、細いものは2・3本)を植えていく。栽培圃場は、畑地と山林の場合がある。 昔は新鮮な茯苓を切って種菌として貼り付けて栽培していたが、成長が遅いためキノコの栽培方法を参考に菌糸栽培が1970年代に始まった。 栽培に使用する菌糸は、木くずに菌を繁殖させたものである。
茯神の栽培
茯神を栽培する場合、菌糸を貼り付けた反対の端に小枝を接木する。菌核は最先端に形成する特性を利用している。
茯苓の加工
収穫された茯苓は一般的に購買所、加工工場で取引され、内部の色調で価格が決められる。2007年では新鮮な茯苓が5~6元/kgで取引されていた。加工工場では茯苓の皮去りを行い、茯苓の品質により「平片茯苓」「小角茯苓」「片茯苓」などの加工を手作業で行う。
理化学的品質評価
産地 | 検体数 | 灰分 1.0%以下 |
乾燥減量 | 希エタノールエキス含量 |
---|---|---|---|---|
中国ALL | 222 | 0.25 ±0.21 | 15.4 ±2.9 | 1.8 ±1.1 |
湖北 | 44 | 0.34 ±0.22 | 16.4 ±1.8 | 2.3 ±0.8 |
湖南 | 25 | 0.16 ±0.08 | 13.9 ±2.3 | 1.4 ±0.5 |
雲南 | 23 | 0.23 ±0.22 | 12.2 ±4.4 | 1.9 ±0.9 |
四川 | 22 | 0.17 ±0.07 | 14.3 ±2.6 | 1.4 ±0.7 |
広西 | 16 | 0.28 ±0.26 | 16.5 ±1.7 | 2.1 ±1.1 |
貴州 | 14 | 0.43 ±0.34 | 15.8 ±1.7 | 2.7 ±1.8 |
朝鮮自治区 | 34 | 0.14 ±0.05 | 16.0 ±2.9 | 0.9 ±0.3 |
北朝鮮 | 64 | 0.14 ±0.07 | 15.7 ±1.9 | 1.5 ±0.8 |
- 中国ALLと北朝鮮産の比較
- 灰分
- 中国ALL > 北朝鮮 ( p < 0.05 ).
- 希エタノールエキス含量
- 中国ALL > 北朝鮮 ( p < 0.05 ).
- 中国の産地による比較
- 灰分
- 貴州 > 雲南,四川,湖南,朝鮮自治区 ( p < 0.05 ).
- 湖北,広西 > 四川,湖南,朝鮮自治区 ( p < 0.05 ).
- 貴州, 湖北,広西,雲南,四川 > 朝鮮自治区 ( p < 0.05 ).その他は有意差無し.
- 希エタノールエキス含量 :
- 貴州,湖北,広西,雲南 > 四川,湖南 > 朝鮮自治区
- 見掛け比重
産地・規格等 | 見掛け比重 | 備 考 |
---|---|---|
雲南・野生 | 1.272 | 水に沈む |
広西・重質 | 1.214 | 水に沈む |
北朝鮮・並 | 1.201 | 水に沈む |
貴州・重質 | 1.194 | 水に沈む |
北朝鮮・良 | 1.186 | 水に沈む |
湖北・白塊(砕) | 1.063 | 水に沈むが、浮くものも混入 |
中国・軽質(サイコロ型) | 1.042 | 水に浮く |
内部形態:鏡検
JP15:内部形態についての記載はない。
- 生薬の性状
本品は塊状を呈し、径約10~30cm、重さ0.1~2kgに達し、通例、その破片または切片からなる。白色又はわずかに淡赤色を帯びた白色である。外層が残存するものは暗褐色~暗赤褐色で、きめがあらく、裂け目がある。質は堅いが砕きやすい。 本品はほとんどにおいがなく、味はないがやや粘液ようである。
- 中央部を乳鉢で粉末にして観察
菌糸 | 顆粒体 | 粘液板 | 担子柄 |
粉末にしても、粘液板、顆粒体はつぶれずに存在し、不定形の菌糸および担子柄が遊離して認められた。
重質と軽質を比較したが、顕著な違いは認められなかった。 |
- 偏光による観察
中国の顆粒体(偏光なし) | 北朝鮮の顆粒体(偏光なし) | 左図と同一視野(偏光) |
雲苓帯皮 <中国雲南省>(重質) | 茯神方 <中国安徽省> | ||
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最外層の皮の部分の切片 最外層の皮は、肉眼では植物のコルク層のように見えたが、顕微鏡で観察すると色のついた菌糸であった。 |
松の根と思われる植物体の師部組織は、つぶれて観察できず、多数の菌糸が認められた。木部組織はほとんど残っており、菌体が入り込んでいる。茶色く着色している部分は、松の根の周皮と思われる。 |