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正倉院宝物材質(薬物)は、聖武天皇の崩御四九日忌に、光明皇太后が先帝の遺愛品600点と共に東大寺盧舎那仏(大仏)に献納した60点の薬物です。当時は薬物も宝物でした。 正倉院には三部屋あり、北倉・中倉・南倉と呼ばれます。遺愛品は北倉に収められ、薬物にも「北122」のように番号がついています。[1] 昭和23-24年の曝涼(いわゆる陰干し)から6年に渡った第一次調査(報告書は昭和30年「正倉院薬物」朝比奈泰彦編修、植物文献刊行会)、平成6-7年の第二次調査(中間報告書は平成8年「正倉院薬物第二次調査報告」柴田承二)により形態学・化学的調査がおこなわれ、最終的に、現存するのは60点のうち38点となりました。 この他、献物帳(いわゆる種々薬帳)に記載されていない帳外品が十数点あります。
- ↑ 「北122」は帳外の竹節人参で、真正の人参であることから正位に戻されました。この他の品も同一であることがわかったり、呼び名と中身が一致しないなど複雑なため、このサイトでは番号を記していません。
- 参考資料
- 宮内庁正倉院ウェブページ
- 柴田承二「正倉院薬物第二次調査報告」正倉院紀要 20, 41-58, 1998
- 柴田承二、米田該典「正倉院厚朴の原植物について-正倉院薬物材質調査補遺-」正倉院紀要 30, 22-28, 2008
- 三宅久雄「青斑石鼈合子と仙薬七星散」正倉院紀要 23, 45-60, 2001
種々薬帳の薬物
種々薬帳の番号毎に並べても薬物の内容が分かりにくいため、ここでは動物由来、植物由来、鉱物由来の順に整理し、類似品を大まかにまとめています。番号順やあいうえお順に並び替えるには、表見出しの▲をクリックしてください。
番号 | 現存 | 動植鉱物の別 | 名称 | 読み方 | 解説 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ◯ | 動 | 麝香 | ジャコウ | ジャコウジカ(雄)の分泌物 |
2 | × | 動 | 犀角 | サイカク | インド産クロサイの角(犀角の記載は2,3と重複) |
3 | × | 動 | 犀角 | サイカク | インド産クロサイの角(犀角の記載は2,3と重複) |
4 | ◯ | 動 | 犀角器 | サイカクキ | 犀角でつくった盃 |
43 | ◯ | 動 | 臈密 | ミツロウ | (セイヨウミツバチではなく)トウヨウミツバチの蜜蝋 |
29 | ◯ | 動 | 紫鑛 | シコウ | インド産シェラック(ラックカイガラムシの分泌物)。中薬における紫草茸(しそうじゅう)に同じ。 |
50 | × | 動 | イ皮 | イヒ | ハリネズミの皮 |
51 | × | 動 | 新羅羊脂 | シラギヨウシ | 不明 |
14 | × | 動 | 元青 | ゲンセイ | 不明 |
8 | ◯ | 植 | 畢撥 | ヒハツ | インド産ナガコショウ (Piper longum)。沖縄の島コショウと同じ。 |
9 | ◯ | 植 | 胡椒 | コショウ | インド産コショウ (Piper nigrum)。コショウは日本薬局方でも明治時代の第三改正から昭和41年の第七改正まで収載されていた |
39 | ◯ | 植 | 桂心 | ケイシン | クスノキ科ニッケイ (Cinnamomum cassia または C. obtusifolium) の幹皮。薬局方のケイヒにあたる |
46 | × | 植 | 蔗糖 | ショトウ | イネ科サトウキビ (Saccharum officinarum) から得られる砂糖 |
41 | ◯ | 植 | 人参 | ニンジン | もと帳内の人参(北93)とされたものは帳外の青木香(北116)と同一品で真の人参ではなく、帳外の竹節人参(北122)が真の人参として帳内に戻された。薬局方のチクセツニンジンにあたる |
42 | ◯ | 植 | 大黄 | ダイオウ | タデ科ダイオウ (Rheum palmatum 又は Rheum palmatum var. tanguticum) の根茎。薬局方のダイオウにあたる |
44 | ◯ | 植 | 甘草 | カンゾウ | 福州産マメ科カンゾウ (Glycyrrhiza glabra var. glandulifera) の根。薬局方のカンゾウにあたる |
32 | ◯ | 植 | 檳榔子 | ビンロウジ | ヤシ科ビンロウ (Areca catechu) の種子。薬局方のビンロウジにあたる |
36 | ◯ | 植 | 厚朴 | コウボク | 薬局方のコウボク(モクレン科モクレン属)と異なり、クルミ科 Engelhardia roxburghiana であることが、解剖所見および樹皮の蓚酸カルシウムから判明。江戸時代の校定書「新校本草綱目」において稲生若水は厚朴の形状をEngelhardia属に近い形に記載しており、こちらの厚朴に意図的に修正した可能性がある。(校定対象の「本草綱目」ではカバノキ科カシワ類の特徴を記している。) |
7 | ◯ | 植 | 小草 | ショウソウ | 薬局方のオンジに似るが、華北産ケシ科イヌキケマン (Corydalis bungeana Turcz.) の莢果 |
37 | ◯ | 植 | 遠志 | オンジ | 華北、蒙古、東北産ヒメハギ科イトヒメハギ (Polygala tenuifolia Willdenow) の根。薬局方のオンジにあたる |
6 | ◯ | 植 | ズイ核 | ズイカク | バラ科の扁核木属 (Princepia) の種子。 |
11 | × | 植 | 阿麻勒 | アマロク | コショウ科アムラタマゴノキ (Spondias mimbin) の果皮および種子。タイ伝統医学における Ma-kok または Luk-ma-Kok に同一。 |
12 | ◯ | 植 | 菴麻羅 | アンマラ | トウダイグサ科ユカン(油柑) Phyllanthus emblica 、別名アンマロク(按摩勒)の果皮および種子。熱帯アジア原産で、アーユルヴェーダでも利用。タイ伝統医学における Luk-ma-khampon や中薬の余甘子(四川省)と同じ。 |
13 | ◯ | 植 | 黒黄連 | コクオウレン | 北部インド産ゴマノハグサ科 Picrorhiza kurroa の地下茎。本草書(開宝本草)にいう胡黄連。 |
26 | ◯ | 植 | 雷丸 | ライガン | サルノコシカケ科 Laccocephalum mylittae (中国名が雷丸) の菌核 |
33 | × | 植 | 宍(肉)縦容 | ニクジュヨウ | ハマウツボ科ホンオニク (Cistanche salsa) の肉質茎 |
34 | ◯ | 植 | 巴豆 | ハズ | トウダイグサ科ハズ (Croton tiglium) の種子 |
35 | ◯ | 植 | 無(没)食子 | ムショクシ | ブナ科植物の虫こぶ。没食子酸 (gallic acid) を含む。 |
38 | ◯ | 植 | 呵(訶)梨勒 | カリロク | シクンシ科ミロバランノキ (Terminalia chebula) の果実 |
40 | ◯ | 植 | 芫花 | ゲンカ | ジンチョウゲ科チョウジザクラ、別名フジモドキ (Daphne genkwa Siebold et Zucc.) の花蕾 |
60 | ◯ | 植 | 冶葛 | ヤカツ | ゲルセミウム科ゲルセミウム (Gelsemium elegans) の根 |
27 | ◯ | 植 | 鬼臼 | キキュウ | 単子葉植物の根茎。第一次調査ではメギ科ハスノハグサ (Podophyllum hexandrum or emodi]] or Dysosma spp.) とは異なり、ユリ科マルバタマノカンザシ (Hosta plantaginea) とされたが、最終的に同定できず。 |
48 | ◯ | 植 | 胡同律 | コドウリツ | 化学組成(TLC)からオトギリソウ科テリハボクではなく、白胡同泪、黒胡同泪、胡同(キジル産)とも異なり、結論は得られていない。 |
52 | × | 植 | 防葵 | ボウキ | 現在はセリ科 Peucedanum japonicum がボウキと呼ばれる |
15 | × | 植 | 青ショウ草 | セイショウソウ | 亡失 |
16 | × | 植 | 白皮(及) | ハクキュウ | 皮が及の誤記とすると、ラン科シラン (Bletilla striata (Thunb.) REICHB. f.) の球根。止血用 |
59 | × | 植 | 狼毒 | ロウドク | 現在はサトイモ科クワズイモ(Alocasia odora) の根茎、トウダイグサ科Euphorbia属の根、ジンチョウゲ科 Stellera属 の根などが狼毒と呼ばれる |
5 | × | 鉱 | 朴消(硝) | ボウショウ | 硫酸ナトリウム10水和物 |
45 | ◯ | 鉱 | 芒消(硝) | ボウショウ | 硫酸マグネシウム7水和物 |
10 | ◯ | 鉱 | 寒水石 | カンスイセキ | 方解石(炭酸カルシウムの結晶) |
17 | ◯ | 鉱 | 理石 | リセキ | 硫酸カルシウム2水和物、繊維石膏 |
49 | × | 鉱 | 石塩 | セキエン | 塩化ナトリウム |
55 | ◯ | 鉱 | 戎塩 | ジュウエン | 岩塩のこと |
18 | × | 鉱 | 禹余粮 | ウヨリョウ | 粘土を含む褐鉄鉱。本草綱目によると池沢に産出するものが兎余糧で山谷に産出するものが太一余糧(漢字はそのまま)。褐鉄鉱の鉱石を振ると中でカラカラ音がするものもあったため、日本では子持ち石などと呼ばれた |
19 | ◯ | 鉱 | 大一禹餘粮 | ダイイチウヨリョウ | 粘土を含む褐鉄鉱。禹余粮(ウヨリョウ)を参照 |
54 | × | 鉱 | 密陀僧 | ミツダソウ | 壁画等に用いる黄土色の顔料で主成分は一酸化鉛 |
20 | ◯ | 鉱 | 龍骨 | リュウコツ | 動物の化石(骨) |
21 | × | 鉱 | 五色龍骨 | ゴシキリュウコツ | 化石 |
22 | ◯ | 鉱 | 白龍骨 | ハクリュウコツ | 化石鹿の四肢骨 |
23 | ◯ | 鉱 | 龍角 | リュウカク | 化石鹿の角 |
24 | ◯ | 鉱 | 五色龍歯 | ゴシキリュウシ | ナウマン象の第三臼歯 |
25 | ◯ | 鉱 | 似龍骨石 | ニリュウコツセキ | 珪化木(樹木化石) |
30 | ◯ | 鉱 | 赤石脂 | シャクセキシ | 赤青黄白黒の五色石脂が神農本草経にあり、基本はケイ酸塩鉱物。当時仙薬として流行した寒食散(かんしょくさん)の影響と考えられる。赤色は酸化第二鉄由来。寒食散についてはページ上部、三宅久雄の参考資料をみること。 |
28 | × | 鉱 | 青石脂 | セイセキシ | 赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
31 | ◯ | 鉱 | 鍾乳床 | ショウニュウショウ | 炭酸カルシウムが主成分の方解石。寒食散の原料。赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
53 | ◯ | 鉱 | 雲母粉 | ウンモフン | 雲母とはケイ酸塩鉱物の総称。寒食散の原料。赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
47 | × | 鉱 | 紫雪 | シセツ | 鉱物八種の配合剤。寒食散の原料。赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
56 | × | 鉱 | 金石陵 | キンセキリョウ | 寒食散の原料。赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
57 | × | 鉱 | 石水氷 | セキスイヒョウ | 寒食散の原料。赤石脂(シャクセキシ)を参照 |
58 | × | ? | 内薬 | ナイヤク | 亡失して不明 |
帳外品の薬物
番号 | 現存 | 動植鉱物の別 | 名称 | 読み方 | 解説 |
---|---|---|---|---|---|
7 | × | 植 | 青木香 | セイモッコウ | ウマノスズグサ (Aristrolochia debilis) の根。但し、帳外品は真正の青木香ではなく、同定できない「人参」との同一品。 |
8 | ◯ | 植 | 木香 | モッコウ | 唐木香(カラモッコウ)すなわちキク科のトウヒレン (Saussurea lappa) の根。中国地域における青木香との呼び方の違いは難波恒雄の著作に詳しい。 |
9 | ◯ | 植 | 丁香 | チョウコウ | フトモモ科クローブ (Syzygium aromaticum Merrill et Perry) の花蕾。薬局方のチョウジにあたる |
10 | ◯ | 植 | 蘇芳 | スオウ | マメ科の蘇芳木(スオウボク)またはブラジルウッド (Caesalpinia sappan L.)。ただし帳外品は紫檀に蘇芳色素を塗布した品である。 |
16 | ◯ | 植 | 沈香および雜塵 | ジンコウ | ジンチョウゲ科ジンコウジュ属 (Aquilaria) 植物の材と樹脂。大小2個のガラス瓶のうち大瓶は成分からベトナム産と考えられる沈香、小瓶は白檀。いわゆる蘭奢待の「黄熟香」(中135)は本品と異なるが、同じくベトナム産と考えられる。 |
19 | ◯ | 動 | 獣胆 | ジュウタン | 成分分析から熊胆(ユウタン)と考えられている。 |
22 | ◯ | 植 | 薬塵 |